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先崎学四段(当時)「生まれて初めて、絶望という名の砂を少しかんだような気がした。」

一人一人が「将棋の天才」である将棋の棋士。

若き日の先崎学九段が、「絶望という名の砂を少しかんだような気がした」相手は、これまた若き日の羽生善治三冠。

さらに、若き日の佐藤康光九段も加えて、以下の一幕は「棋士が他人の才能をどういうときに感じるのか」の一例です。

「2手目△3二金」作戦でライバルに勝つ!

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ときは第1期竜王戦六組決勝・佐藤康光四段-先崎学四段戦

是が非でもライバルに勝ちたい先崎学四段が、トラウマものの夢を代償に閃いたのが、2手目△3二金と指す後手番の作戦。

この手は、先手が居飛車なら損にはならないのですが、振り飛車にされると損になってしまいます。

しかし、かねてから康光四段の性格を熟知していた先崎四段は、自分がそれを指せば「相手は指し慣れていない振り飛車を指してくる」と見切ります。

おれは一つの事実に気が付いた。

「佐藤康光は飛車を振らない」

確かに振飛車の棋譜は一局もない。ちょっと驚いたが、別に気に留めなかった。この大事な一戦に、指し慣れぬ戦法で来るわけがない。

(略)

この手があったじゃないか。

その結果生まれたのが1図。勿論意表を衝くだけでなく、丸三日十分研究した。絶対に悪くならない自信があった。具体的にいうと、銀冠と位取りと、急戦の三段構えで指すのである。

また△3二金と指せば、彼の性格では、100%振ってくると思った。居飛車でくるなんて考えられない。だから研究し易かった。

【引用:振らぬなら、振らせてみよう(前編)

そして、先崎四段が本当に勝ってしまうのです。

普段は遊びに精を出していても、本気になった勝負師の集中力は恐るべし。

丸3日の研究 < 一瞬の感性

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(画像:倉敷藤花戦中継ブログより)

なのですが、作戦がハマってライバルに勝ち、優勝賞金までゲットしておいて「絶望という名の砂をかんだような気」になるわけもなく、この話には続きがあります。

同じく羽生世代の一人であり、その筆頭格でもある羽生善治五段(当時)。

第47期C級1組順位戦で浦野真彦六段(当時)が2手目△3二金を指してきたのに対し、羽生五段は3手目に▲5六歩!と突く妙手を指します。

この将棋は1図以下▲5六歩16△5四歩29▲6八銀7△3四歩2▲6六歩と進んだ(指し手の右は消費時間)

ここで問題なのは、三手目の▲5六歩という手である。何の変哲もない手にみえるが、実はこの手、凄い好手なのである。

難しすぎるし、長くなるので一々説明しないが、▲5六歩△5四歩の交換をしてから中飛車にすれば、腰掛銀に出来ない。とだけ書いておこう。

次の△5四歩29分という数字が、この手がいかに好手だったか物語っている。

(略)

佐藤康光が、この手に気付かなかったのも無理はあるまい。おそらく、彼は頭に血が昇ってゆでダコになっていたはずだ。

そのような状態で、筋道立てて、物が考えられるはずがない。

だが羽生はどうだ。おそらく16分、冷静に考え▲5六歩が最善ではないかという勘が働いたのだ。何という冷静さ、何という感性であろうか。

―おれより強いな、と思った。勝てないな、とも感じた。生まれて初めて、絶望という名の砂を少しかんだような気がした。

【引用:振らぬなら、振らせてみよう(後編)より】

羽生五段が16分使った理由の大半は、この後の指し手を確認に使ったはず。

つまり、2手目△3二金を指された瞬間に、羽生さんの頭脳は3手目▲5六金が浮かんでいたのです。

丸3日かけた研究が、一瞬の閃きによって打ち破られてしまったのです。

こういうところに才能が表れるのであり、「勝てない」と思ってしまうのも、無理はない気がします。

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