中原誠・米長邦雄

名人位の代償 失われた泥沼流

2017/02/17

故・米長邦雄永世棋聖の「50歳最年長名人」への軌跡の続編です。

1993年、第51期名人戦にて、悲願の名人位に就いた米長邦雄永世棋聖でしたが、その栄光は長くは続きませんでした。

翌年、第52期名人戦で名人戦の舞台に初登場した羽生善治四冠(当時)に2勝4敗で失冠。

以後、タイトルを獲得することなく2003年に引退しました。

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「泥沼流」の源泉

(画像:Twitterより)

米長永世棋聖は名人を奪取したときは、若手棋士に学んで現代的な序盤戦術を身につけて中原名人(当時)に挑みました。

とすれば、「泥沼流」と称された圧倒的な終盤力に、理に適った序盤戦術が加われば、これまで以上にべらぼうな強さを発揮しそうなものですが、そうはなりませんでした。

世間は、抜群の終盤力に、序盤のうまさが加わったのだから鬼に金棒だ、と思った。
しかし将棋はそう簡単なものではない。名人になった喜びはたとえようもないほどのものだったが、失ったものもあった。

(略)

今言ったように、米長将棋は、序盤でリードし、以下誤りなく寄せて快勝、という例が多くなったが、そうなると、米長将棋の魅力が薄れてしまった。

魅力とは言うまでもなく「泥沼流」と名づけられた、強靭な粘り腰にあったのだが、筋の良い序盤だと、「泥沼流」が出なくなってしまう。
歪んだ駒組みの序盤からの流れで、粘り腰の強さが出るのである。

(引用:升田幸三の孤独 P.235~236より)

これは興味深い話です。

「泥沼流」の源泉は、歪んだ序盤そのものにあったという。

確かに、ちょっとくらい序盤から不利な将棋の方が、粘り強く指せるような気がします。

名人陥落後の衰え

私の好みに過ぎないが、名人になる頃の米長将棋には、魅力を感じなくなっていた。
名人になってからの衰えの早さを思うと、もし「泥沼流」のままでいたら、と考えてしまう。
そして60歳を過ぎてもA級にいただろうと思う。
ただし名人にはなれなかった。

(引用:升田幸三の孤独 P.236より)

「衰えの早さ」を証明する、名人失冠後のA級順位戦の成績はこちら。

年度 年齢 成績 順位
1994 53 51 6勝3敗 3
1995 54 52 6勝3敗 3
1996 55 53 3勝6敗 8
1997 56 54 4勝5敗 9

失冠直後の2期はなかなかの成績ですが、その翌期は一転降級スレスレの成績。

順位の良さがモノを言って残留するも粘りはここまで。

第56期は4勝5敗ながら降級と、最後は運に見放されました。

A級陥落が決まった後はフリークラスに転出し、「順位戦は出場しないが、その他の棋戦には出る」という立場になりました。

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「個性」を代償に、「実績」を手に入れた

ならば、「ずっと泥沼流のままでいた方がよかったのか?」というと、それはまた別の話。

「名人には将棋の神に選ばれた者でなければなれない」という言葉があるくらい、名人の権威は特別なもの。

その傾向は特に昭和の頃は強く、6度挑んでいずれも敗れた経験を持つ米長邦雄永世にはなおさらだったでしょう。

94年の名人戦挑戦者が羽生善治四冠(当時)で、95年が森下卓八段(当時)、96年は森内俊之八段(当時)と若手棋士が続いたことから、世代交代の流れが押しとどめようもなかったのは明らか。

米長邦雄永世棋聖が名人になろうと思えば、年齢的にも時代の流れ的にも、あのタイミングが最後のチャンスだったといっても過言ではありません。

そして自分自身、これからの将棋に「泥沼流」では通用しないことを理解していたのでしょう。

だからこそ、若手に教えを請うてまで現代風の将棋を身に付け、悲願の名人になった。

一度でも名人になったのは大変なキャリアである。だから米長に悔いはなかったはずだ。

(引用:升田幸三の孤独 P.236より)

人間にとって、「悔いのない人生」が一番。

米長邦雄永世棋聖は、「名人」の「実績」を得たことで、この世に将棋がある限り、その名は後世に伝えられ、残っていくことでしょう。

-中原誠・米長邦雄

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