17歳で女流名人になったときの里見香奈女流五冠
2017/02/12
時を遡ること約7年、2010年2月10日に行われた第36期女流名人位戦第3局。
女流棋界史上3番目に若い、17歳の女流名人が誕生しました。
今やだれもが認める女流棋界の第一人者・里見香奈現女流五冠です。
17歳当時の里見さん
その里見さんが初タイトルを獲得したのは2008年度の第16期倉敷藤花戦。
その1年後、女流タイトルの中で最も歴史の長いタイトルである、女流名人位への挑戦権を得ます。
その当時の里見さんを写した画像がこちら。
(画像:女流名人戦中継ブログより)
今よりあどけなさがあってかわいい。
里見さんは、盤上を見つめて俯(うつむ)く姿が絵になるのです。
女子高生女流名人の誕生
その五番勝負は、出だし里見さんの2連勝。
そして迎えた第3局を、棋界の語り部の一人である先崎学九段が文章にまとめていました。
将棋界は今、里見香奈女流名人の誕生で沸いている。
弱冠十七歳、高校三年生の初々しい女流名人である。
(略)
女流名人戦の三局目の日は、偶然将棋会館にいた。
私が控室へ行くと、里見さんが桂と金を捨てて、相手の玉頭に歩を進めるという過激で勢いのいい手を指したところだった。
それが以下の局面で、駒損が激しいものの竜と角のコンビネーションが意外にうるさい。
当時の里見さんのキャッチフレーズである「出雲のイナズマ」に違わぬ勝負手。
この手を見た先崎九段は、「善悪は微妙というところだが、私は、これはタイトルを奪う者の指す手だと思った」と評しました。
実際にこの手を境に形勢は里見さん優勢に傾きます。
終盤では、里見さんが必勝なのだが、一手うっかりして、どきっとさせられた。
あやうく世紀の大逆転だったのだが、きわどく残した。
このあたりは里見さんにツキがあった。
一手うっかりした局面というのはおそらくコレ。
歩頭に金を出る鬼手!で、うっかり取ると△同角から寄せられます。
しかし冷静に対応して逆転には至らず、里見さんの勝利で終局。
女子高生女流名人誕生の瞬間です。
それにしても凄い報道陣の数だった。空いている空間にはカメラを持ったデカイ(報道係の人はガタイがいいですね)男がそこらじゅうにたむろしている。
終局とともに、それらの人が、対局室に飛び込む姿は静かな将棋会館には似つかわしくないものだった。
(中略)
しばらくすると、感想戦の前に対局者が出て来た。当然大勢のカメラマンも一緒である。その場で、即席の記者会見がはじまった。
「里見さん、お目でとう」
「ほら笑って」
「今の気持は」記者の声が飛ぶ。おいおいこの場でかよ。たむろしていた私は慌ててその場を離れた。
観戦記者なら対局場の作法は心得ているはずで、その場には将棋の取材に慣れていない記者が多くいたことが分かります。
それはつまり、里見さんの女流名人奪取が社会的に注目を浴びていたことを表しています。
好きな道なら楽しく歩け
その後、一冊の本が出版されました。
羽生善治が帯に寄せた「里見香奈は天燃で天才だ!」のインパクトある推薦文が話題になったその本の題名は、「女流名人倉敷藤花里見香奈 好きな道なら楽しく歩け」です。
「好きな道なら楽しく歩け」は、里見さんの座右の銘と言っても過言ではない名言。
女流タイトル戦でもほぼスーツしか着ない里見さんが、スカートをはいているグラビアが載っている貴重な一冊。