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森下卓九段が棋士人生で最も恐ろしい思いをして戦った対局

2017/02/18

将棋界の無冠の帝王・森下卓九段

森下九段は若手棋士時代、将来を嘱望された存在でしたが、順位戦ではあと一歩のところでなかなか昇級できずにいました。

森下九段が順位戦に初参加したのは18歳のとき。

そこから4期足踏みし、次第に精神的に追い詰められていくのです。

順位戦で上がり損ねた焦り

しかし、いったん抜けてしまった魂はなかなか元には戻りませんね。

もちろん、私だってその時々で一生懸命やっているんですよ。

30になって反省をし、何度も将棋に集中し直そうとした。でも、22歳の自分には戻れないんです。

僕は17歳で四段になり、C級2組順位戦を5期戦った。1期目は5勝5敗、2期目は6勝4敗。

最初はまだのんびりしていたけど、3期目に8勝2敗で上がり損なって焦りが出た。

4期目は途中まで7勝1敗で今期こそ上がったと思ってから飯田さん(弘之六段)と神崎さん(健二七段)に負けて昇級を逃した。

『引用:将棋世界2012年10月号(P.46)より』

順位戦は数ある公式戦の中のひとつにすぎませんが、給料の多い少ないは、どのクラスに居るかで大きく変わります。

今は制度が変わったそうですが、この当時は今よりも対局料における順位戦の比重が遥かに高かったそうです。

また、順位戦は引退に直結する棋戦でもあります。

なので、順位戦だけはものすごい力を発揮するような棋士もいて、また昇級枠の狭さから、いくら有望な若手棋士でも簡単には上がれないのです。

あんなに怖い思いをして戦ったのは後にも先にもこのときだけ

(画像:日本将棋連盟ネット支部より)

2期連続で昇級を逃し、焦りのピークに達した若き日の森下九段。

もはや読むだけで「異常」と判断できるような、「いくら勉強しても震えが止まらない」精神状態で5期目のリーグに挑むのです。

これで本当に焦った。5期目はまさに背水の陣でした。

10局とも対局の前後2日間は怖さと興奮で一睡もできなかった。いくら勉強しても震えが止まらない。

8連勝して今度こそ昇級だと思った9回戦で小林さん(宏七段)に負けた。

あれは生涯でいちばんこたえた負けでした。

10回戦は忘れもしない、加瀬先生(純一六段)との対戦。その加瀬先生がこのときはあっさり負けてくれた。

あのとき上がれなかったら僕は精神が持たなかったと思う。

本当にありがたかったし、あの恐怖感は今でも残っている。それから寝られない勝負は1度もない。

あんなに怖い思いをして戦ったのは後にも先にもこのときだけです。

その壁を破った時の努力と充実感。あの気持ちを持ち続けていれば、ずっとトップでい続けられたと思う。

でも、僕にはそれができなかった。

『引用:将棋世界2012年10月号(P.46)より』

人間は極限まで追い詰められるとこうなるのか、と勉強になります。

でもとにかく9勝1敗で昇級はできたわけで、この後はわりかし順調に昇級を重ね、28歳でA級まで昇り詰めます。

ここで終われば、めでたしめでたしで締めれる話。

一度抜けてしまった魂は戻らない

あの気持ちを持ち続けていれば、ずっとトップでい続けられたと思う」という言葉から分かる通り、森下九段はずっとトップでい続けることはできなかったのです。

その鍵を握るのは、冒頭で語っていた「いったん抜けてしまった魂はなかなか元には戻りませんね」という言葉。

森下九段はその後、ある理由で将棋から心が離れてしまうのです。

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