渡辺明 若き日の名棋士たち

若き日の渡辺明棋王が、急所の一番で喫した「悪夢の完敗」

2018/10/11

舞台は今から約13年前、第64期(2005年度)C級1組順位戦最終局。

2つある昇級枠の内、すでに1つは山崎隆之五段(当時)に確定しています。

残る一枠を争うのは、ともに8勝1敗の、順位6位の渡辺明竜王(当時21歳)と順位19位の岡崎洋六段(当時38歳)の2名のみ。

順位の差で、渡辺竜王の方が昇級には有利です。

勝てば文句なく昇級決定ですし、岡崎六段が負けても昇級が可能という、いわゆる「自力」の状況です。

当時の渡辺竜王の情勢

渡辺竜王は当時すでに竜王を2期獲得していましたが、C級1組では今期が3期目でした。

C級1組1年目(2003年度)から9勝1敗の好成績でしたが、いかんせん新参のため順位が悪く、同星の順位上位者が2人いたため頭ハネを食らっています。

その次の期の順位戦(C1の2期目)では一転、6勝4敗という平凡極まる成績に終わっています(この同年に竜王になっている)。

当時はまだ21歳と若かったとはいえ、いくらなんでもそろそろ上がらなければいけません。

昇級のため、この最終局は是が非でも勝たなければいけない.....という状況で、渡辺竜王はなんと完敗を喫します。

窪田ワールドに屈する

渡辺竜王の対局相手の名は、窪田義之五段(当時)。

この窪田五段はC級2組在籍時、降級点を2つ取ってフリークラス入り間近かと思いきや、突然猛烈に勝ち星を集めて昇級するなど、ものすごく調子の波が激しいタイプの棋士。

要は、勝てないときは勝てないけど、勝つときはものすごく強い、というわけです。

それに加えて、窪田五段は岡崎六段と親しく、親友の昇級をアシストするため、気合十分でした。

そして、その気合通りに「ものすごく強い」方の窪田五段は完璧な指し回しで、渡辺竜王を相手に完勝してしまったのです。

これで岡崎六段が昇級...となるはずですが、ドラマのクライマックスは平凡には終わりません。

実は競争相手も負けていた

(画像:マイナビ将棋情報局より)

当時をリアルタイムで知っている方は、この「負けてうずくまる渡辺竜王」の写真を覚えている方も多いのではないでしょうか。

しかし、その右の見出しには、『渡辺明完敗も昇級』とある。

親友のアシストがありながら、肝心の岡崎六段が負けてしまったのです。

これでともに8勝2敗となり、順位で勝る渡辺竜王の昇級が決定します。

渡辺竜王の当時の心境

その当時の心境を、渡辺竜王は以下のようにブログで綴っています。

負けて昇級というのは初めてのことで、複雑ですが素直に喜びたいと思います。

しかし、急所の一番で負けているようでは先が思いやられるので大いに反省します。

2年前は9勝1敗で上がれず、今年は8勝2敗で昇級。不思議なものですが、これが順位戦です。

とにかくホッとしました。

(引用:渡辺明ブログより)

将棋界は強いものが勝つ世界ですが、強いからといって大成するとは限りません。

将来を嘱望された棋士が、なかなかC級を抜け出せないまま、大成し損ねた例はザラにあります。

特に順位戦では、対戦相手の組み合わせや、他の昇級候補の成績など、「運」に左右されることも多いのです。

-渡辺明, 若き日の名棋士たち