渡辺明

渡辺明竜王(当時21歳)の悪夢と悪運

舞台は今から12年前、第64期(2005年度)C級1組順位戦最終局。

2つある昇級枠の内、1つは山崎隆之五段(当時)が確定。

残る一枠を、ともに8勝1敗で順位6位の渡辺明竜王(当時21歳)と順位19位の岡崎洋六段(当時38歳)が並んでいました。

順位の差で渡辺竜王の方が昇級には有利。

勝てば文句なく昇級決定ですし、岡崎六段が負けても昇級が可能という状況です。

当時の渡辺竜王の情勢

渡辺竜王は当時すでに竜王2期を獲得していましたが、C級1組は今期で3期目。

C級1組1年目は9勝1敗の好成績で、普通はこれだけ勝てば昇級できるのですが、いかんせん新参のため順位が悪く、同星の順位上位者が2人いたため頭ハネを食らっています。

その前年度に森内俊之竜王(当時)をフルセットの末に破って、20歳で竜王になったわけですが、その期の順位戦(C1の2期目)は6勝4敗という平凡極まる成績に終わっています。

将棋界の第一人者たらんと思えば、いくらなんでもそろそろ上がらなければいけません。

だから、この最終局は是が非でも勝たなければいけない。

・・・はずのその対局で、渡辺竜王はなんと惨敗を喫します。

窪田ワールドに屈する

当時リアルタイムで観ていた方は、この「負けてうずくまる渡辺竜王」の写真を覚えている方も多いのではないでしょうか。

渡辺竜王の相手は窪田義之五段(当時)。

この窪田五段はC級2組在籍時、降級点を2つ取ってフリークラス入り間近かと思いきや、突然猛烈に勝ち星を集めて昇級するなど、ものすごく調子の波が激しいタイプの棋士。

要は、勝てないときは勝てないけど、勝つときはものすごく強い、というわけです。

それに加えて、窪田五段は岡崎六段と親しく、親友の昇級をアシストするため、気合十分でした。

そして、その気合通りに「ものすごく強い」方の窪田五段は完璧な指し回しで、渡辺竜王を相手に完勝してしまったのです。

天才は運が味方する

これで岡崎六段が昇級・・・となるはずですが、ところがどっこいドラマのクライマックスは平凡には終わらない。

親友のアシストがありながら、肝心の岡崎六段が負けてしまったのです。

これでともに8勝2敗となり、順位で勝る渡辺竜王が昇級決定。

渡辺竜王はそのときのことを、ブログに心境をこう語っています。

負けて昇級というのは初めてのことで、複雑ですが素直に喜びたいと思います。

しかし、急所の一番で負けているようでは先が思いやられるので大いに反省します。

2年前は9勝1敗で上がれず、今年は8勝2敗で昇級。不思議なものですが、これが順位戦です。

とにかくホッとしました。

(引用:渡辺明ブログより)

将棋界は実力の世界ですが、強いか否かを分けるのは実力だけではありません。

むしろ、実力が拮抗する者同士で争うからこそ、運が必要になる。

悪夢の完敗を強運で乗り切った渡辺竜王は、翌期のB級2組では10戦全勝で昇級を決めています。

-渡辺明