加藤一二三

将棋棋士はなぜ通算1100敗しても賞賛されるのか?

将棋界の生きる伝説・加藤一二三九段

滝を止めさせた、鰻重をひたすら食べ続ける、昼食に定食を2つ頼んだ、などの盤外のエピソードに目が行きがちですが、棋士としての実績も伝説級。

先日、将棋史上初めて通算対局2500局を記録して話題になりましたが、ひふみんはもうひとつ忘れてはいけない将棋史上唯一無二の記録を持っています。

それは、通算1100敗です。

なぜ多く負けたのに賞賛される?


ひふみんが通算1100敗を記録したのは2013年3月12日なので、今からもう4年以上前のこと。

2016年度末対局分までで、1179敗まで積み上がっています。

将棋を知らない人に限らず、将棋をある程度詳しく知っている人でも、通算1100敗がなぜ偉大な記録であるかを説明できる人は少ないと思います。

なぜなら普通に考えれば、勝負の世界においては勝つことが賞賛され、負けることは好ましくないはずだからです。

事実、負けることでタイトルを獲得できたり、棋戦優勝することなど絶対にできません。

多く負けようと思えばそれ以上にたくさん勝つ必要がある

それなのになぜ、通算1100敗が偉大な記録であるとして扱われるのか。

その理由は、故・河口俊彦八段の著書「盤上の人生 盤外の勝負」に詳しく記されています。

そういえば、加藤一二三が平成19年、1000敗を記録して話題となった。

そんな記録があるなんて思いもしなかったが、考えてみるとこれは空前絶後の大記録である。

というのも、勝ち星は伸ばせても、年間の負け数は、一定数以上増えないからだ。

年間に出場できるのは、およそ十棋戦。順位戦以外の予選はトーナメント方式だから、普通は一棋戦につき一つしか負け星がない。

予選を勝ち上がり、リーグ戦に入り、さらにタイトル戦に出れば、対局が多くなり、負け星が増えるが、それは簡単なことではない。

順位戦は10局あるから10敗もできるが、そんなに負けると、現役を長く続けられない。

だから、好調な年でも、年間20敗するのは容易ではないが、それを50年間続けて1000敗である。

(引用:盤上の人生 盤外の勝負P.184より)

将棋界の仕組み上、多く負けようと思えばそれ以上にたくさん勝つ必要があるのです。

ひふみんの場合、負け数1179敗はぶっちぎりの歴代1位ですが、勝ち数もそれ以上に多く積み重ねて1324勝(2016年度末対局分まで)。

これは歴代3位の記録で、かつて「棋界の太陽」といわれた中原誠十六世名人(1308勝)すら上回るのです。

現役生活を長く続けないと無理


そしてもうひとつ、重要なことがあります。

それは、たとえいくら多く勝てたとしても、現役生活を長く続けられなければならない、ということです。

中原誠十六世名人は健康上の理由で、61歳で現役引退を余儀なくされました。

大山康晴十五世名人もガン手術のために1年間休場し、一旦は回復したものの、69歳でA級在籍のまま亡くなりました。

ひふみんは今年度で引退が決まっているとはいえ、現役生活は歴代最長の63年!

その間、一局たりとも不戦敗を食らうことはありませんでした。

上記で引用した「年間20敗を50年続けて1000敗」を借りれば、ひふみんの場合、「20敗弱を60年続けて1100敗」です。

まとめ:通算1100敗が偉大な記録である理由

通算1100敗が偉大な記録である理由は、①負けた以上に多く勝ったことの証明であり、また②その現役生活の長さの証明でもあるのです。

今後、この記録を達成できる棋士は現れないかもしれません。

1100敗どころか、4人目の1000敗達成者も当分の間は無理な感じです。

現役棋士でもっとも負け数が多いのは桐山清澄九段(892敗)ですが、おそらく達成する前に引退に追い込まれるでしょう(今年70歳、順位戦C級2組所属で降級点すでにひとつあり)。

もっとも現実味があるのは谷川浩司九段ですが、それでもあと200敗ほどする必要があります。

 

 

 

-加藤一二三