記録係不足問題

ここ数年間、「記録係不足問題」に悩んでいた将棋界

2017/05/03

ニコ生で中継を見ていると、対局者のちょうど真ん中あたりに見慣れない青年がひとり必ずいます。

(画像:棋王戦中継ブログより)

この方は記録係といいます。

記録係とは公式戦の棋譜をとる役割を担う人のことで、主に奨励会員が務めています。

数年前から足りていなかった記録係の担い手

近年、その記録係を希望する奨励会員が不足しているという問題が話題になっていました。

事の発端となったのは2012年6月、奨励会幹事の真田圭一七段。

今年6月の将棋連盟・通常総会で、奨励会幹事の真田圭一七段が「公式戦の記録係を確保することがぎりぎりの状況です」と訴え、棋士たちに今後の対策について相談しました。

(引用:7月16日のブログ「公式戦の記録係の要員が不足している状況で提案された今後の対策」の再掲載より)

それを田丸昇九段がブログで取り上げ、ファンにも周知されました。

将棋界内部の問題ですが、意外にもファンからの注目を集めたので田丸九段も驚いたそうです。

記録係を希望する奨励会員が減った理由

記録係を務めることは、昭和時代に奨励会員だった棋士にとっては「して当たり前」という感性です。

ではなぜ近年になって、記録係を希望する奨励会員が減ったのでしょうか?

その理由は主に以下の3つの要因が挙げられます。

1_インターネット中継があるので記録係をしなくても棋譜が手に入る

インターネットがない昭和の時代では棋譜を手に入れるのは一苦労でした。

なぜ棋譜が欲しいかというと、将棋の修業法として、強い人の棋譜を並べるのは有用だからです。

だがインターネットが当たり前のものになり、注目対局は生中継されるようになった。自宅にいながら、強い相手とネット対戦もできる。

一日中座って記録係を務めることは「勉強法として必ずしも効率的でない」と考える奨励会員が増えているようだ。

ある奨励会員は「奨励会に入ったのは強くなってプロになりたいから。記録係をするためではない」と率直に語る。

(引用:大学進学・ネット普及… 将棋界「記録係」不足に悩むより)

ですが自宅に居ながら棋譜が手に入るなら、わざわざ記録係をする必要はありません。

棋譜並べよりも実戦を数多くこなしたい奨励会員にとっては、「効率的でない」と思うのも無理はありません。

2_学業と両立する奨励会員が増えた

少なくとも、渡辺明竜王が奨励会員だった2000年頃までは、奨励会の例会日は平日でした。

将棋の渡辺くんに竜王の奨励会時代のエピソードがいくつかあります(上の画像は2巻19ページより)

しかし今は休日に例会日が設定されていて、その理由は「学業と両立できる」ように。

大きな理由の一つが大学進学者の増加。奨励会員のうち、過酷な戦いを抜けてプロ棋士になれるのは一握り。

かつては義務教育を終えたら“将棋一本”というケースも多かったが、現在ではプロになれなかった場合も考え、保護者や師匠と相談の上、大学に進む奨励会員が珍しくない。

(引用:大学進学・ネット普及… 将棋界「記録係」不足に悩むより)

棋士になるのは狭き門であり、将棋がダメだったときに備えたいのは当然のこと。

それを無視して昭和の感性のまま将棋一本を強要すれば、棋士を目指す少年がいなくなってしまいます。

3_待遇が割に合わない

記録係は無給というわけではなく、記録料として幾許かの対価が支払われています。

タイトル戦以外で持ち時間が最も長い順位戦(各6時間)の対局の場合、記録料は段位者が10000円、級位者が9000円です。

通常のアルバイト日給なら決して安くありませんが、終局が深夜になると労働時間は15時間(休憩時間を含む)に達し、確かに労働基準法に抵触しそうです。

そこで夜の12時を過ぎたら割増料金を払うことも一策です。ただ記録係不足の根本的な問題は、記録料の問題ではないと思います。

(引用:公式戦の記録係が不足する問題へのコメントとその後の状況についてより)

10000円支払われるとしても、実労働時間が12時間としても時給は833円で、東京の最低賃金を下回っています。

連盟と奨励会員が労働契約を交わしているわけではありませんが、だからといって社会的にも許容されるとは限りません。

未成年の奨励会員

記録係が不足することで起こる直接の影響は棋譜を残せなくなることですが、それよりも深刻な問題があります。

記録料の問題よりも、未成年の奨励会員が深夜まで記録係を務める問題のほうが重大です。その奨励会員の体に何か異変が生じた場合、将棋連盟は管理責任を問われかねません(そういう事例は過去にありませんが…)。

かといって順位戦の一斉対局で、未成年以外の奨励会員をすべて確保するのは現実的に難しいです。

なお終局が深夜になった場合、空いた対局室を記録係の仮眠用の部屋に充てています。終電で帰宅できそうな時刻でも、未成年は宿泊させています。

深夜に外にいると、警官に補導される可能性があるからです。

(引用:公式戦の記録係が不足する問題へのコメントとその後の状況についてより)

奨励会員の大半は未成年であり、未成年を深夜まで拘束することは社会的非難の対象になりかねません。

とはいえ、棋譜を残すためには記録係をどうにかして確保しなければいけないわけで、ここ数年間、連盟はあの手この手でこの問題の対策を講じてきました。

*つづく:将棋連盟が講じてきた「記録係不足問題」への対策(あまり上手くいかなかった例)

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