加藤一二三九段の引退が決定 最後まで加藤流を貫いた一局
2017/06/21
第30期竜王戦6組昇級者決定戦で加藤一二三九段が高野智史四段に敗れ、ついに公式戦から引退のときが訪れてしまいました。
- 獲得タイトル:名人1期含む通算8期(歴代9位タイ)
- 通算対局数:2505局(歴代1位)
- 通算勝数:1324勝(歴代3位)
- 通算負数:1180敗(歴代1位)
盤上盤外ともに数々の伝説を残した将棋史に名を残す大天才が、本日を以て棋士生活に終わりを告げます。
自分の信じる将棋を貫く
公式戦最終局となった本局は、後手の高野四段が加藤九段の十八番たる相矢倉、それも昔からある定跡形で受けて立ちました。
後手からの急戦策が流行する昨今、矢倉の定跡形は数が減っているらしく、直近10局のうち8局が加藤九段の先手を持った将棋(モバイル中継:28手目コメントより)。
流行よりも「自分が良いと信じる指し方」を貫く、加藤流の信念を感じます。
昨年12月の藤井聡太四段のプロデビュー局と同じ進行を辿り、お互いに我が道を行く激しい攻め合いとなりました。
しかしリードを奪ったのは、先行した高野四段。
加藤九段のお株を奪う「重戦車」の攻めを決め、加藤九段の反撃を巧みに受け流し、着実に形勢の差を拡げていきました。
盤外でも最後まで自分のスタイルを貫く
本局は、将棋の内容以外でも加藤流を垣間見た一局でした。
まず、対局室に入った加藤九段は、用意されていたモスグリーンの座布団を、青の座布団に交換。
加藤九段にとってモスグリーンは「闘志の薄れる色」であり、引退のかかった将棋でそれを妥協するはずはありません。
最近注目の将棋めし、加藤九段の昼食はもちろん、もはや代名詞ともいえる鰻重。
夕方にはチーズをペロッと平らげ、夕食にはなんと「カキフライ定食と鶏のからあげ定食」を注文!
しかしカキフライ定食は冬季限定メニューらしく、最終的には「てんぷら定食と冷やしトマト」に落ち着きました(モバイル中継:76手目コメントより)。
将棋への情熱だけでなく、食欲も未だ衰えていないことを見せつけ、逆転の望みをかけてしばしの休息を迎えます。
最後の瞬間
(画像:加藤一二三・九段が引退、「神武以来の天才」より)
しかし逃げ道の広い後手玉と、左右挟撃の攻めを食らった先手玉では逆転のアヤは少なく、ついに加藤玉が詰み筋に入ってしまいます。
終局直前、加藤九段は負けを覚悟したのか、96手目△2八飛と王手された局面で、しばしの間席を外しています。
着手が19時48分、退席したのが19時51分、そして戻ってきたのが20時9分。
そして合い駒をし、観戦記者に今日は感想戦をしないことを告げ、98手目△3六桂と打たれた局面でついに投了となりました。
この瞬間を以て、加藤一二三九段の引退が決定しました。
本局にも大勢の報道陣が詰めかけていましたが、投了するやすぐに席を立ち、無言のまま退席。
すぐにタクシーに乗って帰途についたとのことなので、おそらく投了直前の退席時に手配していたのだと思われます。
77歳になってなお衰えぬ情熱を持ちながら、規定によってもう公式戦を指せなくなる無念さ、その胸中は察するに余りあります。
Twitterで述べた「感謝の言葉」
報道陣に対しては無言を貫いた加藤九段でしたが、心の整理がついたのか、終局後にご自身のTwitterを更新して下さっています。
本日を持ちまして、わたくし加藤一二三は公式戦からは現役を退く運びとなりました。当時の史上最年少記録となる14歳7ヶ月でのプロデビュー以来、63年もの長きに亘り、各棋戦を主催いただき多大なる御支援賜りましたすべてのスポンサーの皆様、報道関係者の皆様には、心より厚く御礼申し上げます。
— 加藤一二三@皆様に感謝申し上げます (@hifumikato) 2017年6月20日
10歳のとき新聞の観戦記に触れ将棋の本質を悟ったわたくしが、天職である将棋に、最善の環境の中、生涯を懸け全身全霊を傾け打ち込むことができましたのは、御支援賜りましたスポンサー、将棋ファンすべての皆様おひとりおひとりのおかげに他なりません。幸せな棋士人生をありがとうございました。
— 加藤一二三@皆様に感謝申し上げます (@hifumikato) 2017年6月20日
いいえ、感謝いなければいけないのは、我々将棋ファンの方です。
加藤一二三九段、63年もの長き間、素晴らしい将棋を魅せていただいて、本当にありがとうございました。
これからも盤外での活躍を心より願っております。