藤井猛

銀河戦決勝の自戦記を読んで分かる、藤井猛銀河の凄味

2016-11

銀河戦で11年ぶりの棋戦優勝を果たし、全国の振り飛車党を歓喜の渦に巻き込んだ藤井猛銀河。

A級棋士の広瀬章人八段を、藤井システムを採用して快勝しての優勝だったので、その反響はなおさらでした。

その自戦記が将棋世界11月号に掲載され、それを目当てに買った人も多いかと思います。

本家にしか見えていない世界

自戦記を読むと、さすが藤井システムの本家というべきか、スペシャリストならではの深い研究を感じます。

藤井システムには、藤井九段にしか見えていない世界がある。

そう思わずにはいられませんでした。

「手待ち」として指された△8五桂

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ぼくがこの将棋と自戦記を読んだ中で、最も素晴らしいと思ったのは、単騎の△8五桂!(44手目)です。

自選記を読むまでは、駒組みが飽和状態に達して短気を起こしたのかと思っていました(単騎の桂跳ねだけに)。

しかし、それはド素人が足りない脳みそで思いついたデタラメに過ぎず、藤井システムの本家は格がケタ違いに違いました。

まず大前提として、「桂馬の高跳び歩の餌食」とばかりに▲8六歩で困りそうですが、それには△5九角と打つ手があって、すぐには取られることはないのです。

実はこの手は、事前研究から編み出された「手待ち」だったのです。

斎藤慎太郎六段が相手だった本戦1回戦でも同じ将棋になり、そのときは△1三香としています。

意味は同じで手待ちですが、いかにもぬるい。

しかし後手はもう動かすべき駒がないので、それに代わる手として斎藤戦後に導きだしたのが、前述の「単騎の桂」です。

「手待ち」の手を考えていて、いかにも「これから攻めます!」と言わんばかりの△8五桂が浮かぶのがすごい。

指し手の性質が全く異なるから、まず読みから切り捨ててしまいそうなものを。

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全て本家の手の平の上

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駒組みが飽和、つまり動かす駒がないのは先手も同じで、広瀬八段は否定的なニュアンスで▲5六角と打ちます。

この手も藤井九段の研究段階からの読み筋で、その手くらいしか有効そうな手がないことを見切っていたのです。

△4九角と打ったのもこれまた研究手で、▲6五歩からの攻めを牽制しながら、▲7八金なら△4四銀と活用する手を見せています。

しかし、▲6五歩以外に有効そうな攻め筋は見当たらず、他の手を指そうにもすでに駒組みは飽和し切ってます。

つまり単騎の△8五桂の段階から、先手はロクな攻め筋もないのに攻めざるを得なくなっているのです。

言わば、広瀬八段は角交換から穴熊に囲った時点で、藤井九段の手の平の上で踊らされていたのです。

この後、藤井九段に少し指しすぎの手が出ましたが、広瀬八段もそれを咎め切れませんでした。

悪手は咎めないと悪手にはならず、むしろ悪手が好手に変わってしまう。

次第に形勢が藤井九段の方に大きく傾いていき、そのまま押し切りました。

-藤井猛