藤井聡太四段が第59期王位戦敗退! 大橋貴洸四段に再び屈する
1月6日、藤井聡太四段が王位戦予選で大橋貴洸四段に負け、第59期王位戦を敗退しました。
藤井聡太四段にとっては、棋聖戦で負かされた将棋のリターンマッチでしたが、雪辱を晴らすことは出来ず。
しかも藤井四段が、同じ相手に2度負かされたのは初のことです。
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さらには王位戦を敗退しただけでなく、予選決勝で待ち受ける谷川浩司九段との公式戦初対局もお預けとなりました...。
再び「横歩取り」で挑むリターンマッチ
藤井四段の先手番となり、棋聖戦のときと同じ手番、そしてもちろん同じ戦型である「横歩取り」となりました。
藤井四段にとっては、一度負かされた戦型であえてもう一度勝負を挑み、大橋四段にとっては、先手が何らかの対策をしていることは承知の上で受けて立つ。
お互い棋士になって1年ちょっとの新鋭同士、いかにも「棋士」らしい堂々たる姿勢。
もっとも横歩取りと一口にいっても色々あり、本譜では、藤井四段がいわゆる「青野流」を採用しました。
大橋四段も飛車で横歩を取り、△2六歩と垂らして強く反発したため、開始早々に激しい展開になります。
大橋四段の研究がハマる
さて、先手はひとまず「と金」をつくられないようにしなければいけません。
アマチュアの発想なら▲2八歩と謝るところですが、藤井四段がそんな弱気な手を指すはずもなく、飛車を大転回してから五段目に引き揚げます。
△2七歩成なら▲2五飛とカムバックさせて成金を掃う意味ですが、ここで大橋四段が指した△7四飛が、本局のポイントともいうべき一手。
この手は大橋四段の研究手らしく、解説の稲葉陽八段は「見たことのない一手」だと驚き、藤井四段も前傾姿勢を深めて長考に沈みました。
異筋の金による制圧
結局▲2五飛と戻し、当初の狙い通り垂れ歩を取りにいきましたが、そこで△2四金!と力強く受けたのが、△7四飛からの継続手。
2六飛にはさらに△2五歩と押さえ、さっきまでブンブン盤上を駆けていた飛車を定位置に押し戻します。
さらに、そこでジッと△8三歩と手を渡しつつ歩を補充したのが、いかにもプロらしい指し回し。
先手の指し手が難しい局面になり、解説の菅井竜也王位も2四金が先手の飛車を制圧していることを評価し、後手持ちの見解を示しました。
藤井四段はまた前傾姿勢を深くして長考に沈み、そのまま昼食休憩に入りました。
決断よく指す大橋四段
休憩が明けて、藤井四段はすぐに▲3八金を着手。
いかにも「ひねり出しました」といわんばかりの手なので、大橋四段も長考するだろう...と思いきや、ほとんど時間を使わずに△3三桂と跳ねました。
このように、AbemaTVで本局の解説を務めた菅井王位 or 稲葉八段が「長考しそう」と予想した局面でも、さしたる時間を使わずにビシビシと指し進めていく場面が度々ありました。
大橋四段は元々決断のいいタイプの棋士らしいのですが、本局は研究がハマって形勢に自信を持っていたのでしょう。
逆に言えば、藤井四段にとっては指し手に苦心することが多く、大橋四段との持ち時間の差がどんどん開いてきました。
苦心が続く藤井聡太四段
先手は飛車を攻めに使えないのが痛く、普通は異筋とされることの多い四段金でも指せると見た、大橋四段の研究が光っています。
バランスをとるために手放した角も、結局は負担になり、それを助けるために玉頭から無理に動くハメになりました。
しかもその手に乗じて、さっきまで飛車を制圧していた金を天王山まで活用され、攻めの拠点として働くという、どこまでいっても先手に苦労の多い局面が続きます。
先手に▲5六歩と打たれ、大橋四段は「機は熟した」とばかりに、総攻撃のサイレンを鳴らします。
△7五飛と切って角を手に入れ、△3九角~△7六角の厳しい二枚角の連撃が炸裂し、藤井陣の金銀3枚があっという間に吹き飛びます。
安全地帯に逃げ込んでいる後手玉に対し、先手玉には辛うじて、飛車の横利きがあるだけ。
ただ、先手敗勢の局面とはいえ、この△5七馬(6七にいた馬で銀を取った)は、悪手ではないけど、最善でもありませんでした。
菅井王位と稲葉八段の検討では、△6八歩▲同飛の交換を入れてから、馬で銀を取る方が明快だったようです。
才能の片鱗
単に△5七馬と指されたのを見て、それまで明らかに諦めモードだった藤井四段が少し体を起して、ここから棋才溢れる妙手順をひねり出します。
まずは馬に当てて▲6八金と打つ。
後手はいったん△6六馬と引き、次に△6七歩と打つ手を見せますが、そのスペースを消しつつ金取りを見せる▲6七角!
稲葉八段はこの手を見て、「粘り強い」と言いましたが、菅井王位は「優しいですね」と返しました。
慌てず騒がず△4八金と逃がしますが、そこで3七の金を▲3八金!と引いたのが、藤井四段にしか思いつかない絶妙手。
この状況でも、遊んでいる金を使おうという発想が素晴らしい!
もっとも、形勢自体は先手敗勢であり、△同金と取られて悪いのでは如何ともしがたく、逆転には至りませんでした。
しかし、もし藤井四段が逆転勝ちできていたら、生涯語り継がれていく名手になっていたことでしょう。