名人復位そしてタイトル通算100期を達成できなかった羽生善治竜王
2018/08/13
昨年の終わりに、『羽生善治竜王がタイトル通算100期を達成する最も美しいシナリオ』という記事を書きました。
ですが正直、内心は「このシナリオ通りになることはないだろうな」と思っていました。
その時点では、羽生善治竜王が名人戦挑戦者になれる可能性はかなり低かったからです。
ところがそれから、将棋ブームに湧いた2017年度の締め括りに相応しい、驚天動地のクライマックスへと向かうのです。
明らかに羽生善治竜王が勝つ流れだった
開幕して暫くは、豊島将之八段(当時)の独走かと思われた第76期A級順位戦。
しかし、終盤になってもつれにもつれにもつれまくり、その果てにはまさかの前代未聞の6者プレーオフになりました。
しかもそれを勝ち抜いたのが羽生竜王であり、2年振りに名人戦の舞台に舞い戻ります。
そしてシリーズが始まってみれば、開幕局を制し、しかもそれが通算1400勝とも重なる奇跡的な巡り合わせ。
誰がどう考えても「羽生善治竜王が名人に復位してタイトル通算100期を達成」する流れであり、将棋世界の表紙がそれを象徴しています。
逆風をはねのけた佐藤天彦名人
ところが、おそらくこの地球にただ一人だけ、そうはならぬと自信を持っていた人物がいました。
そう、名人位を防衛する立場に在った、佐藤天彦名人です。
黒星が先行する苦しい展開だったものの、後手番の第5局を制して防衛に王手をかけると、その勢いのまま第6局も勝って防衛に成功。
そして同時に、羽生竜王の敗退も決まり、達成は棋聖戦に持ち越しとなりました。
「棋聖」も失冠し、「竜王」のみに
羽生竜王が今度は防衛する側の立場で迎えた第89期棋聖戦。
2008年に佐藤康光棋聖(当時)から奪取して以来10連覇中でしたが、挑戦者に豊島将之八段(当時)を迎え、フルセットの末に失冠。
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その第5局では、自陣角を打って局面をリードしに行きましたが、それが奏功せず、そのまま押し切られました。
常に新しい将棋を追い求める羽生竜王らしい構想でしたが、フルセットの最終局を落として大記録の達成をも逃すという、羽生竜王らしくない幕切れでした。
そして、保持するタイトルは竜王のみとなり、同時に将棋界は、八大タイトルを8人で分け合う時代が訪れました。
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「100期 or 無冠」が懸かった竜王防衛戦
またもタイトル通算100期達成は持ち越しとなり、次の機会は第31期竜王戦。
決勝トーナメントはいよいよ挑戦者決定三番勝負を残すのみとなり、広瀬章人八段か深浦康市九段かのどちらかが、挑戦者として名乗りを上げます。
平成最初の竜王戦で初タイトルを獲得し、19歳の若さでスターダムへと駆け上がった羽生善治竜王。
今年の秋、48歳になって迎える平成最後の竜王戦では、タイトル通算100期とともに、約28年振りの「無冠」もまた懸かっています。