他の棋士とは「何か」が違う藤井流振り飛車
(画像:日本将棋連盟ネット支部ブログより)
将棋世界2012年11月号に掲載された、勝又清和六段による「突き抜ける!現代将棋」第38回より。
このときの題名が、その名もズバリ「なぜプロは藤井将棋に憧れるのか」。
「藤井九段の振り飛車は他の棋士と何が違うと思いますか」という問いに対し、弟弟子の阿部健治郎五段(当時)と奨励会時代に藤井将棋に魅せられた門倉啓太四段が、それぞれの意見を述べています。
「鰻屋の鰻」と「ファミレスの鰻」
(↑)ひとことで言うとこういうことです。
さて本題の前に、「藤井猛」「鰻」と聞いて、意味を知らない人は先にこちらの記事を読んでください。
阿部健治郎
(画像:王座戦中継ブログより)
まずは弟弟子であり、序盤巧者として有名な阿部健治郎五段(当時)。
- 藤井さんの振り飛車は他の人と何が違うと思いますか?
阿部 本質は「絶対この戦法でよくしてやる、優勢にする」という気構えではないでしょうか。
たとえ後手だろうと手損しようと、手詰まりに追い込むだけではなくポイントを稼ぐ、そういう気迫を感じます。
いま角交換振り飛車はかなり注目されていますが、それは超速が出たことでゴキ中が大変になっているからで、逃げているところもあるじゃないですか。
藤井さんが新しい戦法を指すときは、必ずよくしてやるとすごい研究をします。その気構えが違うんです。
門倉啓太四段
昨日8月16日に入籍しました。これまで以上に精進して参ります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 pic.twitter.com/RO1fXBiotU
— 門倉啓太 (@k_onyourmark) 2016年8月17日
こちらは奨励会時代に藤井将棋に魅せられて角交換振り飛車を指すようになり、それが原動力となってプロになった棋士。
- 藤井さんの角交換振り飛車は他の棋士と何が違うと思います?
門倉 やはり藤井先生は鰻屋で、他の棋士はファミレスということでしょう。
毎回、本人にしか分からないような工夫をしていて、「絶対に駒組み勝ちするんだ」という信念が感じられる。
棋譜を見れば藤井先生が指しているとわかります。
一方、他の棋士は、たとえばゴキゲン中飛車の勝率がよくないから流れてきたとか、みんな指していて有力そうだから自分もやってみよう、という具合でしょう。
序盤は互角でいければよいという指し方が多い印象で、藤井流とはまったくベクトルが違います。
2人のおっしゃていることは同じ。
藤井九段は「鰻屋」で、他の棋士は「ファミレス」ということ。
藤井将棋は現代振り飛車の礎
ゴキゲン中飛車に対する超速3七銀戦法が猛威をふるったのは、2011年度。
その煽りを受け、久保利明棋王・王将(当時)が、2011年度末に「棋王・王将を2つとも失冠したうえにA級からも陥落する」憂き目に遭いました。
年度末の数ヶ月で、「二冠王のA級棋士」が「無冠のB級1組」まで転落したわけで、ゴキ中の受難を象徴しています。
藤井九段が角交換四間飛車を引っ提げて羽生善治王位への挑戦権を得たのが、その約2ヶ月後の2012年5月30日。
挑戦者決定戦で渡辺明竜王・王座(当時)を藤井システムで下し、その夏から始まった第53期王位戦で角交換四間飛車の隆盛のきっかけをつくりました。
つまり、角交換四間飛車はゴキゲン中飛車と入れ替わるように現れた、振り飛車の主力戦法。
だから裏を返せば、ゴキゲン中飛車の隆盛期に、藤井九段が角交換四間飛車をコツコツ磨き上げていなかったら、2012年からの振り飛車はどうなっていたのだろう?
この問いへの答えが全く想像がつかないところに、藤井九段の偉大さが分かります。