十七世名人有資格者・谷川浩司九段が引退するときの基準
2014年1月7日に行われた第72期A級順位戦7回戦で敗れ、谷川浩司九段のA級陥落が決定した際、その去就が注目されました。
その後行われた記者会見で、B級1組で指すことを発表しましたが、当時谷川九段は51歳でした。
会社員の定年が65歳になったこの御時世、まだまだ引退するような年齢ではありません。
にも関わらず、その進退が世の関心を引いた理由は、谷川九段が将棋史に名を残す大棋士だからです。
将棋史に名を残す棋士の宿命
(画像:朝日新聞DIGITALより)
なんでもない棋士なら、誰が降級しようが引退しようが、少なくとも世間は何も言いません。
しかし、将棋史に名を残すほどの大棋士になると、ズルズルと衰えながら指し続けることを世間は許してはくれません。
将棋界が実力制に移行して初の永世名人である木村義雄十四世名人は、47歳で名人を失冠した際に潔く引退しました。
その跡を引き継ぐ形で第一人者として君臨した大山康晴十五世名人は、69歳で亡くなるまでA級に在籍し続けました。
中原誠十六世名人も、B級1組で2期だけ指してフリークラスに転出し、半分引退した形になりました。
通算タイトル獲得27期は歴代4位、十七世名人の資格を有する谷川浩司九段についても、それは例外ではありません。
それはご自身も自覚しているようで、将棋世界Special「谷川浩司」にて、引退するときの基準を語っています。
主役になる可能性がなくなったとき
このムックが出版されたのは2012年7月なので、当時はまだA級に在籍していましたが、その年の第71期A級順位戦は2勝7敗でした。
順位がモノを言って紙一重の差でギリギリ助かった、という有様で、その翌年度も盛り返せずに降級しました。
- 谷川さんも今年50歳になりました。将棋の棋士としては後半戦です。
とはいえ、大山十五世名人は50代で30台、40代のときより多くの勝ち星を上げた。
谷川さんの50代の目標はなんですか。また将来、現役を退くということに何か基準を持っていますか。谷川 正直言って、自分は40代後半から納得いく成績を挙げていない。
ベストの将棋もあれば、不出来な将棋もありますが、その確率が落ちているのが現状。
目標は難しいが、A級をずっと長く続けること。それにもう一度タイトル戦に出ること。
引退に関しては、自分が主役になる可能性がなくなったときだと思っています。
B級1組で指して今期で3期目ですが、昇級に絡むほどには勝てず、むしろ今年度は降級争いのトップを走っている始末。
しかし、谷川九段は、引退は「自分が主役になる可能性がなくなったとき」だとおっしゃっています。
つまり、現役を続けているということは、「まだ自分が主役になれる可能性があると思っている」ということ。
50代半ばでA級やタイトル保持者として返り咲くのは至難のワザですが、前例がないわけではありません。
*前例→53歳でA級に復帰し、62歳までA級に在籍し続けた加藤一二三九段
人は、可能性に自ら蓋をしない限り、その可能性が閉ざされることはありません。