谷川浩司

谷川浩司九段の「21歳最年少名人」記録の凄さを検証する

2017/06/08

歴代4位、タイトル通算獲得27期を誇る谷川浩司九段。

1995年には、阪神淡路大震災で壊滅した故郷の期待を背負って羽生善治六冠(当時)と戦い、その七冠制覇を阻止する激闘を演じました。

将棋界の御意見番的存在だった故・芹沢博文九段はその才能を高く買い、このような名言を残しました。

谷川はスッスと歩いてきたら、目の前に蜜柑があった。食べたいなと思って食べたら、それが名人位だった。

(引用:「将棋棋士の名言100―勝負師たちの覚悟・戦略・思考」より)

将棋史を語る上で欠かせない棋士の一人ですが、その中でも空前絶後の記録として名高いのが「21歳最年少名人」。

中学生棋士&最速挑戦

(画像:「竜王戦中継ブログ」より)

若き日の谷川浩司九段の偉業「21歳最年少名人」の記録が、どれだけすごいことなのかを検証してみましょう。

21歳で名人になろうと思えば、制度上最速の5年で名人になるとして逆算すれば、16歳から順位戦に参加しなければなりません。

16歳から順位戦に参加するということは、15歳までに(=中学生の内に)三段リーグを抜ける必要があるということです。

例として、15歳で四段になった棋士が第75期から毎年昇級するパターンを表にまとめると、以下のようになります。

年度 所属 年齢 開催期間
2016 75 C級2組 16 2016年6月~2017年3月
2017 76 C級1組 17 2017年6月~2018年3月
2018 77 B級2組 18 2018年6月~2019年3月
2019 78 B級1組 19 2019年6月~2020年3月
2020 79 A級 20 2020年6月~2021年3月
2021 79 名人 21 2021年4月~2021年6月

歴史上たった5人しかいない、中学生棋士になることが必須条件なのです。

つまり、ほぼ全員の棋士には、そもそも挑戦する権利すらない大記録なのです。

唯一、史上最年少で棋士になった藤井聡太四段にのみ、その記録に挑む条件が整っています。

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特別の出自

谷川九段は、最初の期だけ昇級を逃した後、4期連続でA級まで昇りました。

そして初参加のA級でいきなり優勝し、そのまま加藤一二三名人を破って名人位に就きました。

つまり、デビューからわずか6年。

中学生で棋士になるだけでも奇跡的なのに、順位戦をたった1年足踏みしただけの6年で駆け抜けたのです。

棋界の語り部として長く活躍した故・河口俊彦八段は、著書の中でこのように表現しました。

谷川の棋士人生は、A級に昇ってから始まったのである。

棋士の誰もが、四段から棋士人生が始まるのに比べて、えらい違いである。

将棋の棋士としての出自が特別の人なのだ。

(引用:「盤上の人生 盤外の勝負」より)

谷川九段は14歳で四段になり、15歳から順位戦に参加したので、1期昇級を逃しても間に合いました。

例えば羽生善治三冠は16歳から順位戦に参加し、名人になったのは24歳のとき。

四段昇段後8年での名人在位はもちろんかなり早い方ですが、谷川九段はそれよりもさらに早いのです。

まとめ 「21歳最年少名人」のすごい理由

21歳で名人になろうと思えば、以下の条件を満たさねばなりません。

  • 16歳から順位戦に参加(棋士になる)する=中学生の内にプロデビューを決める
  • 順位戦で毎期昇級し、A級1年目で挑戦者になり、そのまま名人奪取!

谷川九段はそれらを成し遂げた、現在唯一の人物。

それを覆しうる唯一の存在である藤井聡太四段がこの記録を塗り替えられるのか、またひとつ将棋を観る楽しみが増えました。

-谷川浩司