最年少タイトル獲得記録を持つ棋士・屋敷伸之九段
将棋ファンが、藤井聡太四段にもっとも期待しているのはおそらく「初タイトル獲得最年少記録」です。
2018年1月1日現在、初タイトル獲得最年少記録を持っているのは、21歳で名人になった谷川浩司九段でも、19歳で竜王になった羽生善治竜王でもありません。
では、いったい誰が持っているかというと、屋敷伸之九段です。
史上最年少のタイトル獲得(18歳6ヵ月)
(画像:マイナビニュースより)
屋敷九段が初めてタイトルを獲得したのは、第56期棋聖戦(1990年度前期)でのこと(*当時の棋聖戦は年2期制)。
当時の第一人者である中原誠棋聖(当時)を相手に、2連敗からの3連勝で奪取し、そのときなんと18歳6ヵ月でした。
その若き日の軌跡を、米長邦雄永世棋聖の著書「将棋の天才たち」から引用します。
中学2年生で奨励会入りした屋敷は16歳で四段。これは相当なスピード出世だが、さらに驚いたことに、四段になって1年ちょっとで棋聖の挑戦権を得たのである。
17歳の挑戦者。平成元年、全盛期の中原誠棋聖との五番勝負を2勝2敗に持ち込んだが、最終局で惜しくも敗れた。
本領発揮はその後だ。屋敷は18歳になっていたが、連続挑戦したのである。
前年で屋敷の手の内を知った対豪が出だし2連勝。ところがそのあと連敗して2年連続のフルセット勝負となった。
その第5局。中原がまさかの大ポカ。屋敷棋聖が誕生してしまった。
(引用:将棋の天才たち
P.151)
屋敷九段の若手棋士時代は、14歳で奨励会に入り、16歳でプロ棋士になり、17歳でタイトル戦の挑戦者になり、18歳でタイトルホルダーになったのです。
タイトル獲得までの最速記録の持ち主でもある
しかもこの棋聖奪取は、最年少記録であるとともに、プロ入りからタイトル獲得までの最速記録でもあるのです。
過去に最年少記録でタイトルを獲得したのは、1990年(平成2年)8月に中原棋聖を破って18歳6ヵ月で棋聖を獲得した屋敷伸之五段(現九段)。
また、屋敷が四段に昇段したのは1988年10月で、棋士になってから1年10ヵ月でタイトル獲得は最速記録となっている。
(引用:伝説の序章 天才棋士 藤井聡太
P.104より)
あまり語られることのない記録ですが、最年少でのタイトル獲得よりも、むしろこの最速記録の方がすごいかもしれない。
四段昇段から初タイトル獲得まで、羽生善治竜王は約4年、渡辺明竜王も約5年かかっていますから、1年10ヵ月という記録は尋常ではありません。
藤井聡太四段でも、最年少タイトル記録の方は更新できるかもしれませんが、最速記録の方はおそらく無理です。
恐ろしいほど早熟の棋歴
豊川孝弘七段は、近藤正和六段との対談の中で「羽生と屋敷の才能は桁違い」であると、その棋才を評しています。
― お二人から見て、羽生、屋敷、森内、佐藤康光の才能は?
豊川 森内、佐藤も強いけど、羽生と屋敷は異質。あの才能はけた違い。僕だって2年ちょっとで奨励会二段になったから、指して感想戦やれば才能は分かる。それが勝負にならない。羽生や屋敷と対戦すると、こっちが何もしないうちに寄せられちゃう。手の見え方と足の速さが違う。神業ですよ。だから、18歳の屋敷棋聖や19歳の羽生竜王の誕生は当然と思って見ていた。
(引用:将棋・名勝負の裏側
P.86より)
これまでのとおり、恐ろしいほどの早熟っぷりで、順位戦では第48期から初参加して、当たり前のように1期抜けでC1への昇級を果たしています。
ついでにいうと、三段リーグでも1期抜けで昇段しており、16歳8ヵ月でのプロ入りは、歴代10位の若さです(参照:日本将棋連盟より)。