藤井聡太四段 vs 増田康宏四段 2人の10代棋士による「記録」と「記憶」を懸けた大一番
2023/04/02
28連勝を達成し、最多連勝記録歴代1位タイに並んだ藤井聡太四段。
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それから息をつく暇もなく、今度は26日に第30期竜王戦決勝トーナメント1回戦を戦います(しかもモバイル中継が無料だそうな)。
その相手は予選5組優勝者の19歳、増田康宏四段です。
増田康宏四段はどういう棋士かを一言で言うと、藤井四段よりも前の「5人目の中学生棋士」候補だった棋士です。
「5人目の中学生棋士」になり損ねて
(画像:新人王戦中継ブログより)
増田康宏四段は1997年11月4日生まれ。
14歳で三段リーグに参加して5期目(第55回)、17歳になる直前の2014年10月1日付けで四段昇段しました。
神童の例に漏れず、棋士になる前からその名が将棋世界でも言及されています。
-(略)森下さんにも増田康宏三段という超有望株のお弟子さんがいる。では、佐々木君や増田君は羽生さんの後を継ぐ棋士になれますか?
森下 死ぬ気でやれば可能性はある。だが、羽生さんほどの魂を持って死ぬ気でやらないと厳しい。谷川さん(浩司九段)は小学校1年でアマ7級だった。それが佐々木勇気君は小学校1年でアマ四段になり、他にも小学校1年でアマ三段クラスはごろごろいる。だから彼らには才能はある、環境はある。でも、死ぬ気でやる根性があるかどうか。それがなければ羽生さんを超えるのは大変です。
(引用:将棋世界 2012年10月号
P.48より)
2015年度に加古川青流戦で準優勝、2016年度に新人王戦で優勝と着実に実績を挙げています。
中学生棋士は逃したとはいえ、16歳でのプロ入りはもちろんかなり早い方。
もしも「藤井聡太」の存在が無ければ、もっと注目されていたはずの才能の持ち主です。
生まれて初めて年下に平手で負けた
しかし2017年6月末の現在、将棋界どころか社会全体を巻き込んで、その注目は藤井聡太四段へと集まっています。
その藤井四段とは、AbemaTVオリジナル企画「炎の七番勝負」第1局(2017年3月放送)の相手として対局し、敗れてしまいました。
それも▲9七玉!という、いかにも天才の片鱗が垣間見れる一手を決め手にされて、です。
関連記事:【炎の七番勝負】 藤井聡太四段、絶妙の玉捌きで増田康宏四段を破る 【第1局】
増田四段はこの対局を、非公式戦にも関わらず「これまでで負けて一番悔しかった将棋」として挙げているほどです。
Q15、これまでで負けて一番悔しかった将棋は?
「AbemaTVの藤井四段戦です」
――注目された対局でしたからね。
「生まれて初めて年下に平手で負けました」
――なんと!そうなんですか。増田先生が19歳、藤井四段が14歳ですか。増田先生から見て藤井四段はどうですか?
序盤がうまいです。普通若いと序盤は粗いとしたものなのに、しっかりしてます」
――先生と対戦した将棋、観戦してましたけど終盤の▲9七玉にはびっくりしました。
「あれは・・・不覚でしたね。あんなに強くなっているとは思いませんでした」
――あ、以前にも対局したことがあったんですか?
「はい。藤井四段が三段になったときに一度。そのときは勝ちました。今回もまぁ勝てるだろうと思ってたんですが、自分の想像以上に強くなっていました」
(引用:驚愕必至!増田康宏四段インタビューより)
思えば、この将棋を見て「藤井聡太四段は何かが違う」と見方を変えた将棋ファンも多いのではないでしょうか。
それだけ鮮烈な決め手でしたし、その後の寄せも圧巻でした。
藤井聡太の「記録」か、増田康宏の「記憶」か
読売新聞の竜王戦展望より。増田四段「藤井四段が勝ちすぎている現状があり、「将棋界はぬるい所」と思われるのは悔しいです。」プロたる者こうでなくては。 炎の七番勝負の雪辱に期待。 #将棋 #竜王戦 #藤井聡太 #増田康宏 pic.twitter.com/aosu3rciZE
— KK (@hypergiac) 2017年6月21日
そういう現況と過去を踏まえ、増田四段は闘志全開。
26日の対局に向けての意気込みを以下のように語っています。
増田四段は「藤井四段が勝ちすぎている現状があり“将棋界はぬるい所”と思われるのは悔しいです。負けられない対局なので力勝負に持ち込み、攻め勝つ心構えです」と意気込みを語った。
「将棋界はぬるい所」だと思われているかはともかく、「このオレが29連勝を阻止してみせる!」という気迫が存分に伝わってきます。
藤井聡太四段が最多連勝記録歴代単独1位となる29連勝を達成するか、増田康宏四段がそれを阻止するか。
もしも増田四段が勝ち、竜王まで登りつめることができれば、その名を世間に知らしめ、自分に集まるはずだった期待と注目を取り戻すことができます。
26日の対局は、渡辺明竜王への挑戦者を決める最初の対局であるとともに、2人の10代棋士の「記録」と「記憶」をかけた勝負でもあるのです。