将棋界の制度

将棋棋士が引退規定に該当しても現役を続けられる方法

将棋界は勝負の世界であり、一定以上勝ち続ける限りは年齢による引退などありません。

先日、63年に及ぶ現役生活を終えた加藤一二三九段は14歳で四段昇段して以来、77歳まで現役棋士で在り続けました。

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ですがそれは裏を返せば、将棋界では勝てなくなった棋士は年齢に関わらず、規定によって強制的に引退へと追い込まれるということです。

引退規定に該当しても現役でいられる方法

将棋棋士の出処進退は原則として、数ある棋戦の中のひとつに過ぎないはずの順位戦の成績のみによって決まります。

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しかし、それはあくまで原則の話であって、この世には必ず例外があります。

実は2010年に規定が一部追加され、順位戦で成績不振に陥って引退に追い込まれても、所定の実績次第では引退を回避できるようになっているのです。

将棋連盟は、引退に該当しても所定の実績で棋戦に参加できる制度が7月9日付で発効したことを発表しました。

竜王戦は4組以上に在籍、5組在籍者は2期だけ参加。

王位戦、王将戦はリーグ残留者。王座戦、棋王戦、棋聖戦、朝日杯、NHK杯はベスト4。

銀河戦は優勝か準優勝。

以上の実績を挙げれば、棋戦ごとに参加できます。そして対局がすべて終わった時点で引退となります。

(引用:引退に該当しても所定の成績で棋戦に参加できる制度が発効より)

この制度の概要を一言で言えば、「順位戦で勝てなくても、他の棋戦でたくさん勝ってるなら、その棋戦だけは参加できるよ」ということです。

対象になるのはフリークラスに編入された棋士のみ

ただし、この制度はフリークラスに編入された棋士のみが対象で、転出してフリークラス入りした棋士は対象外です。

この制度の対象者は、順位戦でC級2組から降級した60歳以上の棋士、順位戦で同じく降級して60歳になったフリークラス棋士、順位戦で同じく降級して10年たったフリークラス棋士など。

いずれも従来は、その時点で引退となりました。

自身の意思でフリークラスに転出した棋士(現在、田丸を含めて18人)には適用されません。

(引用:引退に該当しても所定の成績で棋戦に参加できる制度が発効より)

つまり、2017年度からフリークラスに転出した森内俊之九段は対象外ということです。

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順位戦で勝てない=他の棋戦でも勝てない

ですが、この制度が発行されて約7年、この規定によって引退を長引かせることができた棋士は未だ存在しません。

その理由は、「順位戦で勝てない棋士が、ある特定の棋戦だけ勝ち進む」ということは、基本的にあり得ないことだからです。

しかも求められる所定の実績が、リーグ残留しろ、ベスト4に残れ、優勝か準優勝しろ、と羽生善治三冠や渡辺明竜王クラスでも毎度毎度クリアできるとは限らないレベルです。

勝てなくなった棋士に「一流棋士並の実績を残せ」と言っているのだから、無理な話なのは道理なのです。

竜王戦はまだ可能性が高いが

ただ、竜王戦だけは他に比べると基準がかなり緩いといえます。

現実的に最も可能性があるのは竜王戦での実績です。4組以上の在籍者は、数年以上は持つでしょう。

5組在籍者は、2期以内に4組に昇級すればさらに延長し、1期目に6組に降級すれば2期目はありません。

来年以降は、竜王戦だけ毎年対局する棋士が出てくるかもしれません。

(引用:引退に該当しても所定の成績で棋戦に参加できる制度が発効より)

竜王戦だけ突出してハードルが低いのは、この規定を強く要望したのが、竜王戦を主催する読売新聞社だからです。

しかし、「現実的に最も可能性がある」はずの竜王戦でもやはり、勝てなくなった棋士には高いハードルなのです。

もう1つ、竜王戦のランキング戦の1組~4組に在籍する棋士は、フリークラスの引退規定の引退にならず、竜王戦は2年指せる規定がある。

該当者はまだいないが、現役で竜王戦のみの出場、年間対局数が3局だけという棋士が出る可能性はある。

(引用:将棋界の不思議な仕組み プロ棋士という仕事 P.95より)

いちばんハードルが低いはずの竜王戦ですらクリア出来た棋士はいないのだから、とどのつまり、勝てなくなった棋士は、どの棋戦に出ようと勝てないのです。

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