『将棋の渡辺くん』誕生秘話(前編) 普通の主婦だった伊奈めぐみさんが漫画家になった理由
2018/03/15
渡辺明竜王の奥様であり、『将棋の渡辺くん』の作者でもある伊奈めぐみさん。
めぐみさんは今ではれっきとした漫画家ですが、そのデビューまでの道のりは異色中の異色。
なぜなら、めぐみさんはそれまでマンガを描いた経験は一切ない、普通の主婦だったからです。
普通の主婦から漫画家へ
(画像:日本将棋連盟より)
ではなぜ、普通の主婦だった伊奈めぐみさんが漫画家としてデビューし、しかも自分の旦那を主人公にしたマンガを描くことになったのでしょうか?
その経緯が、連載が始まって間もない頃の将棋世界2013年9月号で明かされています(当記事の引用は全て、将棋世界 2013年9月号「竜王の奥さんがマンガ家デビュー」より)。
- めぐみさんはマンガを描いた経験はないんですよね?
伊奈 ええ、読むのは好きですけどね。自分で書こうなんて思ったこともないです。
- 担当編集者さん(掲載誌「別冊少年マガジン」の創刊編集長)は、どんな経緯でめぐみさんにマンガを頼もうと思ったのですか。
担当 2009年に僕が『別冊少年マガジン』を立ち上げたときのことですが、誌面で小説などといった文字企画を充実させたくて、コラムニストを探していたんです。そのころ渡辺竜王のブログをよく読んでいたんですが、そこから奥様のブログ「妻の小言。」を見るようになり、すごく面白くて、はまりました。そのとき、渡辺竜王とめぐみさんを、何かの形で出したいと思ったんです。
渡辺明竜王は棋士ブログの先駆け的存在で、それを一冊にまとめた書籍が出ているくらいです。
一方で奥様のめぐみさんも独自にブログを開設していて、こちらも将棋ファンの間でけっこう有名でした。
「将棋の渡辺くん」と「明日対局」の表紙を見比べて分かる通り、後者の書籍の挿し絵を描いたのは(漫画家デビュー前の)めぐみさんです。
突然届いた「漫画家になりませんか?」メール
ただし、担当さんの頭の中では、漫画家としてスカウトするアイデアは最初は無かったそうです。
担当 いや、当時その考えはまったくなかったですね。渡辺竜王のお悩み相談とか、渡辺竜王が各界の有名人と将棋を指していく企画とか、そういったものをつらつらと考えていたんですが、どうもうまくハマらないなあと。それが昨年の4月頃、ふとストレートにマンガを描いてもらえばいいんじゃないかと思ったんです。それでさっそくめぐみさんの連絡先を調べたんですがどうしても見つからない。そのとき、たまたまブログで、竜王の『明日対局。』という本のプレゼント企画があって期間限定のメールアドレスがパッと載ったんです。これだ、と思ってすぐさまメールしました。「週刊少年マガジン編集部のものです。マンガを描いてみませんか?」って。
ひとつのことを考え続けていると、あるときパッと閃く瞬間が来るときがあります。
そして、その閃いたアイデアは案外原点回帰というか、当たり前のことだったりする。
ともあれ、こんな突拍子もないメールを受け取っためぐみさんがどう思ったのかというと...。
『将棋の渡辺くん』が生まれた「運命の分かれ道」
- 突然そんなメールがきて、びっくりしませんでしたか。
伊奈 何なんだろうこれ、と思いました。そのプレゼント企画は900通ほど応募がきて、全部読みましたけど、1通どうみても怪しいのが混じってる。とりあえず旦那に「こんなの来たんだけど、どうしよう」と相談したら、「まあ、返事してみたら」って。
担当 「は?マンガ?何を言っているんですか?」みたいな返事がきました(笑)。
もし自分にこんな怪しいメールがいきなり届いたら、ゾッとして無視してしまいそうな気もしますが、ここが『将棋の渡辺くん』の運命の分かれ道。
ここでめぐみさんが旦那に相談せずに無視していたら、『将棋の渡辺くん』は誕生しませんでした。
『将棋の渡辺くん』誕生秘話(後編) 伊奈めぐみさんが漫画を描くことに決めた意外な決め手に続きます。