将棋界において通算1000敗が偉大な記録である理由
2017/04/02
加藤一二三九段の持つ偉大な記録の中に、「通算1000敗」というものがあります。
2007年に将棋史上初めてそれを「達成」し、後に有吉道夫九段、内藤國雄九段も達成しました。
そして2013年には、前人未到の通算1100敗を記録しました。
上述の有吉道夫九段、内藤國雄九段はすでに引退済みなので、この記録を達成する棋士は今後、まず現れません。
将棋史上ただ一人の1100敗「達成」者
(引用:http://www.nikkan-gendai.com/articles/image/life/160888/21664)
しかし、よく考えれば、いやよく考えなくても、勝負の世界において負けることは、普通は好ましくないことのはずです。
では、なぜ将棋界において、1000回も負けることが偉大な記録として扱われるのか。
その理由は、故・河口俊彦八段の著書「盤上の人生 盤外の勝負」に詳しく記されています。
これを読めば、将棋界において、通算1000敗が偉大な大記録である理由がよーく分かります。
たくさん負けるためにはそれ以上にたくさん勝つ必要がある
そういえば、加藤一二三が平成19年、1000敗を記録して話題となった。
そんな記録があるなんて思いもしなかったが、考えてみるとこれは空前絶後の大記録である。
というのも、勝ち星は伸ばせても、年間の負け数は、一定数以上増えないからだ。
年間に出場できるのは、およそ十棋戦。順位戦以外の予選はトーナメント方式だから、普通は一棋戦につき一つしか負け星がない。
予選を勝ち上がり、リーグ戦に入り、さらにタイトル戦に出れば、対局が多くなり、負け星が増えるが、それは簡単なことではない。
順位戦は10局あるから10敗もできるが、そんなに負けると、現役を長く続けられない。
だから、好調な年でも、年間20敗するのは容易ではないが、それを50年間続けて1000敗である。大山にして、781敗しかできなかった。
(引用:盤上の人生 盤外の勝負
P.184より)
将棋界では、多く負けようと思えば、それ以上にたくさん勝つ必要があるのです。
それも、ただたくさん勝てばいいというわけではありません。
1000敗達成者の棋歴から鑑みるに、タイトル戦の常連となるか、A級に長く在籍するかのどちらかは最低限必要です。
しかし、それは河口八段も著しているように、簡単なことではないのです。
何故ならほとんどの棋士は、タイトル戦に出ることもなく、A級に上がることもなく引退していくのですから。