棋士と将棋と年齢と
(画像:王座戦中継ブログより)
棋士は年齢の影響をどのように受けるのか。
野球選手なら20代から30代前半がピークで、40歳に近づくにつれ衰えが目立つようになるのが一般的。
野球のように「体力は使わない」と思われていそうな将棋でも、年齢による盛衰があるのは同じこと。
そして、将棋界も若い人が勝ち、年齢を重ねるほどに勝てなくなっていく世界なのです。
では、棋士の年齢ごとの活躍度合いを、河口俊彦八段の著書「大山康晴の晩節」から紐解いていきましょう。
棋士がもっとも勝てる20代
ではまずは、棋士が最も勝てる20代から。
棋士がいちばん勝てるとき、すなわちピークは25歳くらいである。
加藤一二三は18歳でA級八段になり、中原誠は23歳で名人になった。
史上最年少名人の記録を作った谷川浩司が名人になったのは21歳。羽生善治は24歳のときである。
最近の例でいえば、渡辺明竜王が初めて竜王を獲得したのは20歳のとき(2004年)。
それ以後にタイトル保持者となった、広瀬章人王位(2010年)は23歳、糸谷哲郎竜王(2014年)は26歳のとき。
佐藤天彦名人は今年、28歳でした。
タイトルは獲れなくとも、対局数・勝数・勝率ランキングで上位を占めるのは、四段になって間もない活きのいい若手がほとんどです。
棋力が落ち始める30~40代
では、ピークを過ぎて中年にさしかかるとどうなるか。
ピークはだいたい30歳くらいまで維持できるが、それからほんのすこしずつだが、棋力が落ち始める。
そして40歳を過ぎるとガクンと落ちる。あるとき私はそれに気がついて、男の厄年は本当だ、と思った。
A級中堅で活躍していた棋士が、40歳前後になると、B級1組に落ちる。
それまでの力を私達は覚えているから、1年でまたA級に戻るだろうと見ていると、さらにB級2組に落ちてしまう。
そんな例は、大内延介、板谷進、桐山清澄、勝浦修、その他たくさんある。
さすがにB級2組の格ではないから、B級1組にすぐ戻るが、A級までは戻れない。
A級からB級2組まで連続降級した最近の例は、藤井猛九段です(第69~70期)。
連続してB級2組までは落ちなくとも、しばらくB級1組にとどまり、A級に戻れないようだと、それは下降トレンドに入っている証拠。
A級中堅より格上の、A級上位の棋士(例:羽生、森内、谷川など)だと、40歳になってもその地位は揺らぎません。
はっきり衰えが見える50代
では、50歳を過ぎればどうなるのでしょうか。
50歳ともなれば、どんな棋士でも衰えがはっきり見てとれるようになる。
大山にしても名人位を失ってからは、奪い返すことはできなかった。
米長邦雄は49歳11カ月で初めて名人になったが、これは最年長名人記録として破られることはあるまい。
この米長にしても全盛期は30歳から40歳の頃だった。中原も50歳になると、A級を維持するのが苦しくなった。
かつて大山は「毎年落ちそうになるようなら、もう長いことはありません」と言ったが、そういうものなのだろう。
米長も、名人には1期だけで羽生に奪われ、54歳のとき、A級から落ち、順位戦から引退し、フリー棋士となった。
中原もやはり51歳でA級から落ち、2年後、B級1組でフリー棋士となった。
最近の例は谷川浩司九段で、やはり50代前半でA級から落ち、B級1組の1期目は苦戦しました。
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まだ40代半ばですが、森内俊之九段・佐藤康光九段も2014年度のA級順位戦で負け越すなど、全盛期のような活躍は少なくなってきました。
編集後記
これらが、棋士の年齢ごとのおおよその活躍度合い。
「年齢」とか「歴史」とか、とある視点に注目して将棋を「観る」と、また違った見え方がして面白いですよ。
ちなみに前述の話は、タイトルを獲得したり、A級に長く在籍した経験があるなどの、ある程度以上の活躍をした棋士の場合の話です。
若いうちから勝てない棋士は、一生勝てないままです。